『2046』(3)

前回の続き。 (3) ではなぜ、「世界が二つに解離してしまっている」ことが「やさしさ」につながるのだろうか。 (ここから先、これまでにも増して個人的で「勝手な」読み方が続きます) まずチャウは、自分の魂が「2046」の世界、つまり決定的に幸せの「…

『2046』(2)

昨日からの続き。 (2) さて前回述べたように、この『2046』では全編通して、主人公チャウによる「行きて還りし物語」が徹底的に完遂しない様子が描かれている。チャウの投影としての小説内登場人物タク*1が、まさに「2046」から唯一還ってきた男として設…

『2046』(1)

『2046』(監督:ウォン・カーウァイ)を見る。以下、感想など。ネタバレあり。 (1) 木村拓哉の海外進出作ということもあってか、やたらと宣伝に力が入っているこの作品だが、ぼくの場合もちろんそんなところに興味はない。『いますぐ抱きしめたい』以来…

『QED 百人一首の呪』

高田崇史『QED 百人一首の呪』(講談社文庫)を読む。以下、ちょっとした感想など。 高田崇史のデビュー作。この作家の本を読むのは今回が初めてだったのだけど、読み始めてまもなく出てくる「幽霊」「鬼」とか「呪」とかの言葉にそのまま夢枕獏の安倍晴明シ…

小金持ちの怖さ2

(続き) 前日、居酒屋の勢いそのままに一人の友人の部屋に上がりこんだぼくたちは再び飲み始めたのだが、そのころには完全に疲れきってしまっていたぼくは睡魔に襲われてぼんやりしていた。部屋の主人Aがパソコンを起動し、ネットで出会い系サイトを検索し…

小金持ちの怖さ1

このあいだ、大学からの友人の結婚パーティー後のちょっとした打ち上げ*1で、やっぱり大学からの友達グループで飲んでいたときの話だ。 二杯くらい飲み終わったころ、いつものように友人Mの話になった。Mは現在司法浪人中で、アメリカへの留学経験があるせい…

映画と本のメモ

あとでビデオ借りたり読み返したりしないために、メモ。 『スウィングガールズ』(監督:矢口史靖)。コメントなし。手間ひまかけたテレビの2時間ドラマ。いい意味で。だけど、ぼくにはこういう映画の見方が分からない。人に言わせれば「見方もなにもない」…

「世界」の濫用

積ん読*1だった『ファウスト』Vol.3(講談社)を手に取り、パラパラめくる。 いくつかの小説と東浩紀の批評を流し読みし、ほかの小説をペラペラ。で、放り投げる。なんというか、なんなのだろう、この「合わない」感は。気になってもう一度めくると、冒頭近…

読んだ本のメモなど

まったく、何日寝ていたか分からなくなるくらいの風邪をひいた。 風邪じゃなく食あたりだった可能性もあって、おかげで3キロほどやせていた。dietという言葉の中に「死(die)」がまぎれているのも、あながち偶然ではないのかもしれない。語源なんかは知ら…

プロ野球参入問題

ぼくのことをあまり知らない人に、プロ野球の新規参入問題について、「ライブドア」と「楽天」と、どっちがいいと思うのか訊かれた。正直なところ日本の野球はほとんど見ないので「どっちでもいい」と答えたのだけど、続けざまにちょっと思い直して、「やっ…

『アイ,ロボット』

ウィル・スミス主演の『アイ,ロボット』(監督:アレックス・プロヤス)を見る。以下、ちょっとした感想など。ネタバレあり。 我々は境界に対して責任ある存在であり、我々が境界なのである(ダナ・ハラウェイ) ストーリーは押さえどころに対して忠実で、…

江古田飲食評価2

きょうは定食系の店。なお、星は五つが最高で、あくまで個人的評価です。 「洋庖丁」:☆☆☆ 自称B級グルメの店。700円前後の定食が並ぶが、ほとんど全てがフライパン料理か揚げ物。総じて味付けは濃く、汗を流す人向けの味。セットの豚汁には旨みがない。…

江古田飲食評価1

ぼくの第二のふるさと、江古田の飲食店についてメモ。書いておかないと忘れてもう一回行ってしまったりするので。なお、あくまで個人的な評価です。 きょうのところはラーメンについて。 「どっと屋」:☆☆ 二郎系のラーメン。食べたことがあるのは「ラーメン…

『CODE46』

先週見た『CODE46』(監督:マイケル・ウィンターボトム)の感想。ネタバレあり。 感想を一言にするなら、なんとも「微妙な映画だった」ってところだろうか。正直に言って、それほどの感動があったわけでも、とても考えさせられたというわけでもない。ひとつ…

K-1GP2004開幕戦

ここ一年くらい、ぼくは格闘技の不可能性をあらわすひとつの極端な例として曙に注目している。 というわけでレミー・ボンヤスキーvs曙の一戦だが、ある意味期待通りのKOによって*1、今回も曙は勝つことができなかった。 曙太郎の語る「精神性」みたいなもの…

RPGについて

別にそれほど深い感慨ではないのだけれど、最近のいわゆるライトノベルの隆盛やその周辺をめぐるいくつかの批評などを見ていると、そこにそれとない「欠落」を感じることがある。 それはゲーム、なかでもRPGのナラティブに対する言及の少なさである。 もちろ…

『珈琲時光』その他

昨日は『珈琲時光』(監督:ホウ・シャオシェン)を見た。 「小津安二郎の生誕100年を記念」した作品ということで、今回は、見る前からぼく自身が最近拘泥している「物語」や「ドラマ性」についてはいったん頭の中から取り払っていたため、ゆったりと楽しい…

醜いもの

断定してもいいことだが、安易さは醜い*1。 最近のニュースから。 11日午前11時45分ごろ、千葉市若葉区西都賀3丁目の市道で、2人組の男が、車いすの同市稲毛区の無職女性(40)を路地に引き込み、ナイフのようなものを見せ「金を出せ」と脅した。…

パーティー用の文章

来月結婚の披露パーティーを開く友人カップルから、そのパーティーのパンフに載せる文章を頼まれた。「ぼくたちの歴史を一番よく知っているのはお前だから」とのこと。即答で引き受けたものの、二人が付き合い始めたのはもう8年も前のことで記憶も曖昧だし…

とんかつ日和

発作的にとんかつが食べたくなり、いままで入る機会がなかった池袋「ほんきや*1」へ。 黒豚ロースかつ定食を頼む。 雑居ビルの二階という立地の外見に似合わず、店内はとても清潔な印象。少し音楽のボリュームが大きい感じがしたが、それは一人で行ったせい…

読んだ本のメモ

『パレード』(吉田修一:幻冬舎)。 あるマンションで暮らす5人の若い男女の物語。5人それぞれが話者である5つのパートからなる。 印象に残った部分の抜粋。 「笑っていいとも!」ってやっぱりすごいと私は思う。一時間も見ていたのに、テレビを消した途…

『LOVERS』

『HERO』をそれなりに楽しく見た記憶に引かれて、 『LOVERS』(監督:チャン・イーモウ)も見に行く。以下、思ったことなどを少々。ネタバレあり。 例によってぼくの関心はほとんど物語だけなので、新聞のレビューとかでも絶賛されている色彩感覚や衣装*1そ…

おばさん嫌い

きょうは早めの昼食を池袋の小さな中華屋でとった。 で、注文したチンジャオルースー丼が出てきて勢いよくそれをかっ食らっていると、客として入ってきたおばさんがぼくの横に立って、こっちを覗き込んできた。気にしても仕方がないので食べ続けていると、 …

『華氏911』など

旬から外れるとあまり意味がなくなってしまう種類の映画だと思ったので、いくつかの選択肢の中から『華氏911』(監督:マイケル・ムーア)を選んで見に行く。以下、ちょっとした感想、考えたことなど。 ムーアの作品を見るのは前作『ボウリング・フォー・コ…

エアコンから自由へ

先週、部屋のエアコンが壊れて思ったこと。 暑いのが苦手なぼくは冷房が効かなくなると何もできなくなってしまって、日記の更新どころか各種本当にやらなくちゃいけないことにまで手がつかなくなる。 でも空調設備が整っていなかった時代というのはそんなに…

anan のカラダ特集

友達が置いていったanan(マガジンハウス)をめくる。 ぼくはこの手の雑誌(の男子版)を読んでいた記憶がほとんどなくて、もっと全然「ファッション」よりのメンノン*1とかも10代を通り過ぎてからは買ってない。実際服とか、もうブランドやショップが決ま…

日テレ嫌い

きょうは調子が悪くてどうにも飲みに行く気分にならなかったので、誘いの電話がある時間帯に携帯の電源を切っておいた。最近は嘘をつくのも面倒になっている。夏の暑さのせいかな? 夏の暑さのせいだ間違いない。 そういうわけで、部屋でぼんやりしつつテレ…

曙太郎は夢を見る

あーうー言ってるうちに盆も終わってしまった。 盆前に考えてたことの絡みでいくと、PRIDEグランプリも新日のG1もオリンピックの陰に完全に隠れたままで終わってしまったし。 今回のPRIDE(の結末)は、完全にこのあいだまで書いていた[K-1の終焉]の文脈の中…

K-1の終焉(7)

最終回。 (7) このことが引き起こしている事態について、いくつかの周辺的な事例を挙げよう。 まず、現在の格闘技界においては、「強さ」をめぐる言説が非常に偏った形で分布している。 例えば、先にも挙げた今年5月の「K-1 ROMANEX*1」での中邑真輔(プ…

K-1の終焉(6)

前回からの続き。 (6) そしてこのマンガ*1の帰結は、今後の格闘技を考える上で非常に示唆的なものだとぼくは考えている。 格闘技界において80年代に起こった新たなリアルを求める運動は、「セメント」への志向とが、どのようにして「ショー」と整合性を…