とんかつ日和

発作的にとんかつが食べたくなり、いままで入る機会がなかった池袋「ほんきや*1」へ。
黒豚ロースかつ定食を頼む。
雑居ビルの二階という立地の外見に似合わず、店内はとても清潔な印象。少し音楽のボリュームが大きい感じがしたが、それは一人で行ったせいでもあるのだろう。とんかつ屋でここまで清潔感を出している店はめずらしい。とにかく、ひさしぶりに「当たり」をひいた予感。
まず、ざるに盛られたキャベツと2種類のドレッシングが出される。中にはそれだけを先に食べ出す客もいるようだが、ぼくはウサギではないので、一緒に出てきたゴマをすり鉢で軽く擂り、キャベツには手をつけずにゆっくり待つ。しばらくすると、小さな羽釜でご飯が出てくる。砂時計が置かれ、「一分ほど蒸らしてください」と店員の声。なるほど、とんかつが出るタイミングがきちんと計算されているようだ。
砂時計の砂がすべて落ち切ったタイミングで、とんかつの膳が出てきた。カツと味噌汁に漬物、それに大根おろし、タルタルソースが添えられている。
ご飯を羽釜から茶碗に盛り、一口食べる。かすかに香り、甘い。少し硬めの炊き上がりはぼくの好みだ。
カツの断面を見ると、きれいなピンク色をしており、それが溶けた脂に包まれてほのかに光っている。口に含んで驚いたことは、そのやわらかさである。素性の悪い豚をまずく処理したりするとへんに筋張った噛み応えだけが口の中に残ることがあるが、そういったいやらしい抵抗感が一切ない。おかげで、純粋に衣のサクサク感と脂身のジューシーさ、そして赤身のしっとりとした感触を味わうことができる。
ソースの味は特筆すべきものではないが、それでも最近増えている妙に甘いソースに比べれば、多少酸味がきいており、後味もしつこくない*2
ほかに、備え付けの調味料として「特製の塩」が置いてあったので使ってみた。なるほど、肉の持っている甘みを感じるにはいいような気もするが、いかんせん「衣」との相性が悪い。天ぷらに比べると、とんかつの衣は個性が強くそれ自体に味を感じやすい。とんかつに合わせるには、やはりすこし水分を含んだ調味料でないといけないと思った。
最後に、味噌汁と漬物だが、漬物がそれなりの味であったのに対して、味噌汁が少し寂しかったように思う。揚げ物の油っぽさを中和する意味合いなのだろうが、具は「生のり」のみで、味もかなり薄い。具が忙しくなりすぎるのは問題だが、カツの油はキャベツとご飯、それに漬物で十分に緩和されるものだ。「味の薄さのおかげでダシの味を感じられる」といったものでもなく、少し残念だった。
しかし、トータルで見るならばそれもささいな瑕疵といえる。少しばかり高いが、その分の価値が十分にある一食だった。
あらゆる欲望の中でも「うまいものを食べたい」欲だけが、ぼくにはどうも抑えきれません。


*1:http://www.honkiya.com

*2:ただ、すったゴマとの相性は決していいとはいえない。そもそも、最近主流になりつつあるこの「すりゴマ+ソース」という組み合わせについては、ぼくはそれほど肯定的ではないのだ