K-1の終焉(1)

今日から何回かに分けて「K-1の終焉」について考えてみる。これは、格闘技というものに仮託した、「ショーの臨界点」についての印象論である。



(1)
K-1の時代」は終わりを告げた。もはや、一世を風靡することは永遠にないだろう。格闘技の一ジャンルとして、「スポーツ」として、今後は細々と閉鎖的なサークル活動にいそしむよりほかに残された道はない*1
確かに、総合プロデューサーであった正道会館石井館長の逮捕や、マイク・タイソンの招聘に失敗したこと*2、そして曙の無残な連戦連敗はK-1にとって大きな痛手だった*3。しかし事の本質はそうした諸要素を超えた部分にある。すなわち、このK-1の凋落は歴史の必然なのだ。
話は少しばかり過去に遡る。
大塚英志は著書『「おたく」の精神史』の中の一章を割いて、80年代のプロレスにおけるひとつの特異な運動としてのUWFを論じている。
プロレスに詳しくない人のために、UWFについての簡単な説明を引っ張っておこう。

日本におけるプロの格闘技第1号としてUWF第1次UWF)が80年代中期に新日本プロレスから派生した。この団体は従来のプロレスにはなくてはならないとされてきたショー的要素を排除した「真剣勝負」を標榜しており、前田日明佐山聡初代タイガーマスク)・藤原喜明高田延彦*4らを中心に活動を行い、一大ムーブメントを起こした*5
・「ウィキペディア」内の項目「総合格闘技」より
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B7%8F%E5%90%88%E6%A0%BC%E9%97%98%E6%8A%80

大塚はその中で、UWFを支えた前田日明佐山聡のその後の活動を踏まえたうえで、彼らのたどった軌跡*6を「外部への越境」「虚実の仕切り直し」であったと指摘、それを自らの「80年代観」へと反映させている。それは同時に、(大塚を含め)彼らの世代が「リアル」を求めて彷徨う記録としても読み取ることができ、そのことが大塚の著作を優れた同時代ドキュメントとしている。
確かにUWFは、「プロレスとは観ることではなく語ることである*7」と考えたプロレスファンにとって格好の素材であった。ポストモダン的言説との親和性を持つ前田日明の存在もまた、そうした傾向を助長したのだと思う。しかしながら、その後20余年が経過し、人口に膾炙した格闘技の「現在」を知るぼくたちにとって、いまや「格闘技は、ただただ観るもの」であることは疑いようもない事実である。
そしてそのような「事後的」な視線から捉えたとき、UWFから発生したプロレス・格闘技の変化の軌跡は、「虚実の仕切り直し」とセットであった単純な志向性、<「誰が一番強いのか」という身も蓋もない問いかけが、だれによってどのように「現実」に着地していったのか>の変遷として捉えることができる*8
そしてK-1の最盛期もまた、それがこの身も蓋もない問いかけに対して一種の「所有権」を主張できた時期とかぶるのである。
長くなるので詳細は避けるが、K-1の主体であった正道会館石井館長)はK-1以前、第2次UWFを解散させたあと前田日明が立ち上げたRINGS(1991年旗揚げ)へ主力選手(佐竹雅昭角田信朗)を送り込んでいた。RINGSは新興勢力の中で唯一TV局(開設直後のWOWOW)と契約を結んでいた団体であり、前田のカリスマ性も手伝って*9UWFの系譜の主線となっていた*10。ルールはマッチアップによって何種類かあったが、それでも前田をはじめヴォルク・ハンやディック・フライといった圧倒的な強さを持つスター選手を抱えることで、「世界最強はリングスがきめる」というキャッチコピーにそれなりのリアルを感じさせていた。
しかしながら、それが広く格闘技ファンに、そして世間に受け入れられるには多くの難点があった。



次回に続く。


*1:もちろん現実的にはいままでの実績やテレビ局その他との関係から、海外進出や他団体との交流その他によって延命が図られ続けていくだろうが

*2:まだあきらめてないらしいが、タイソンが本業であっさりと負けてしまったいま、その価値はかなり薄れたのではないだろうか

*3:それに関連して、アーネスト・ホーストという「クレバー」な選手がチャンピオンとして君臨し続けたこと。これがK-1の「スポーツ」化を大きく促進してしまった

*4:当時は「高田伸彦

*5:UWFほか、その後のプロレス・格闘技の流れについては、http://sarunokaku.hp.infoseek.co.jp/index.html が時系列順に詳しくまとめてあって参考になる

*6:あるいは、いまなおたどっている軌跡

*7:大塚英志『定本 物語消費論』より

*8:それはもちろん、「セメント(ガチンコ勝負)がどのように実現可能になったのか」ということとも大いに関係する

*9:まあ、それが先なんだろうけれど

*10:このへんは異論もあるだろうけれど、人口膾炙という観点からは疑いえないだろう